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もっとも幸福なのは生まれないこと,少なくとも人間として生まれないことだ。
疲れてしまった。疲れたという感覚それ自体というよりは,この感覚の反復にもう疲れてしまった。
そのあとの湿度にゆれる
老いた愛を弔いにいく
真夏の湿度に濡れていく なまぬるい血がこそばゆい
汗よりも重く涙よりも鈍い
海よりもあたたかく雨よりもなじむ
鋭さが痛みと近いのならば言語とも近いのだろう
しかし饒舌の豊かさではなくただ湿度があるだけなのだ
怠惰に無言を蕩尽してはならない
毎日首から落ちる庭の芙蓉をしなびぬうちに掃くつもりが
蝉まで息絶えて仰向けに落ちている
みつめながらとらわれる 取り残されて静寂のはじまりがみえない
ふたつ見逃すならばもういちど見過ごさなくてはならない
夏がわたしを追い越すようじっととどまるとき
肋骨に突き破られた上体を四肢でくるむ身体を知っている
その身体をくるむことが愛ではないと知っている
その身体をくるまないことが弔いではないと知っている
愛のそのあとの世界を生きる
語らない理由など語るまい
美しく鋭利な精神を侵す湿度に
身をゆだねながらふれる肌に生える
細い産毛がかがやき 果てしなくつづいてゆれている
Hydrangea, in a windy day
「撮れてしまったもの」に強く惹かれている。突風が吹く中ファインダーをのぞき、よいと思った瞬間に運動神経で数度シャッターを切った。撮れたものをみてみると、たしかに構図自体は意図したものに近いが、多くの部分は裏切られている。とうてい自分が撮ったものにはみえないが、やはり好ましいと思った。