Sea

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海をみることなく育ったわたしが一番好きな色は、ほとんど灰色に近い曇りの日の海の色だ。曇り空の日に海をみるときにかならず目を細めている、あの身体感覚が独特の感傷と結びついているのだろうかとふと思う。目を細めてみるものは懐かしく、直視できないものは抽象的な記憶の像しか結ばない、だから色と空間の感触と匂いだけがある。直視したものも直視した瞬間からつねにずれて擦り抜けては去っていくが、直視できないものは最初からずれていて、運がよくても遠目に眺めるだけで、向かいあって出会うことなど永遠にできない。
抽象的な像しか結ばないものはつねに自分よりもおおきい。ずれつづけて擦り抜けていくものが最終的に自分の手に負えないほどおおきくなることはしっている。しかし穏やかな海は最初からただおおきいと感じる。おそらく最初からそこに含まれているのだ、だからわたしは一度も海と出会ったことがないような気がしているし、実際にそうなのだろうと思う。