2014-01-01から1年間の記事一覧
ふだんあけることのない机の引き出しを整理してみようとあけると、高校時代に友人たちがくれたおびただしい数の手紙が出てきた。封筒に入ったもの、中身がみえないように便箋自体が複雑な折り方で折りたたまれたもの、ただ二つ折りになっているもの、とても…
カーブを描いてホームに入ってくる地下鉄をみながら、予期をすることについてぼんやりと考えていた。一時期、可能性を予期し、いろんなものの何手か先を読み、それに先回りをして升目を周到に塗りつぶすようにして生きていた。塗りつぶせない場合には、あら…
昼下がりの都電に揺られながら窓の外をみやると、鋭く青く冷たい空気の中まっすぐに続く線路の切っ先にただぼんやりと突っ立っているわたしがいた。強すぎる度数のレンズのゆがみの端から光線のように大きく伸び、よく研がれた刃物が切っ先で刺せなかった余…
うつくしいひとの睫毛のようだと思いながらまなざしの軌道をすばやく盗む。もちろんうつくしいひとなどどこにもいない。形容だけがある氷の上を歩いていることにわたしたちは蓋をする。蓋をして足で踏みつける。頑丈な靴を買い、大きな車を買うのは強い力で…
風に吹かれながらシャッターを切り、手のぶれの感触からこの写真が明瞭なものではないことは指を離した瞬間に知っていた。そのままもう一度シャッターを切ろうと構えたとき、葉の先に垂れた水滴は風に吹かれて横に流れていった。わたしは安堵した。安堵の理…
ル・クレジオ『海をみたことがなかった少年』(Mondo et autres histoires)を読んだのは12-13歳のころだった。その短編集のなかにはいっていた『リュラビー』(Lullaby)のことを思い出す。ちょうど主人公と同じくらいの年齢だった。リュラビーはある朝、学校に…
ここ最近、自分が大きく変化した気がした。自分が突然変わったことを実感することはほとんどないので驚いている。成熟といえるかもしれない。なにか水準ががたっと変わった感触だ。 端的にいえば、自分にまるで関心がなくなった。関心がないことに関心を持っ…
先日壁をつたう細い枝の写真に"Desire"とタイトルをつけた。直感的に、ああこういう感じだ、と思って迷わずつけたのだけれど、空を背景に枝を撮ってみたらまったく別のものだったので少しおどろいた。少しは似ているはずなのに決定的に印象が違うのはなぜな…
撮り手自身の姿が鏡やガラスに映った写真は世の中にあふれている。この手の写真は撮り手の自己イメージと自分自身をよりよくみせたいという自己愛が色濃く反映される気がして、はずかしくてうまく撮れなかった。写真を撮られることが苦手で、写真を撮られな…
花を形容する紋切り型の言葉や印象から自由になれるという点だけでも、枯れた花をみつめる意義があると思う。もちろんわたし自身は意義のためにみているわけではなくただ好きでみているだけだ。とても好きなので枯れた花の捨てどきもわからない。「花が美し…