Raindrop (stealing a glance)

f:id:pwimg:20141129163226j:plainうつくしいひとの睫毛のようだと思いながらまなざしの軌道をすばやく盗む。もちろんうつくしいひとなどどこにもいない。形容だけがある氷の上を歩いていることにわたしたちは蓋をする。蓋をして足で踏みつける。頑丈な靴を買い、大きな車を買うのは強い力で踏みつけるためで、そのうち踏みつけることさえやめて空を飛び、地面から遠く離れる者まであらわれる。しかし地面を意識しないよう生活するその動機を説明できる者は少なく、説明できたとしてもあまりに部分的すぎるせいでほとんど耐えがたい詩のようなものになる。だからこそ強い力を手に入れることを欲望するのだろう。しかしもちろんうつくしいひとはどこにもいない。
空転する形容の渦が向けられるのは生身の物質だ。ある日仮託され、欲望を流し込まれてできるのがうつくしいひとだ。徐々にうつくしいひとは物質としての側面を忘れられ、魂として扱われることになる。このときから魂は氷の下で生きる。うつくしいひとと名指された生身の物質は、いまごろ少し葉がくたびれた野菜や顔色の悪い肉を市場で買っているところだ。生きるために。