Ghost

昼下がりの都電に揺られながら窓の外をみやると、鋭く青く冷たい空気の中まっすぐに続く線路の切っ先にただぼんやりと突っ立っているわたしがいた。強すぎる度数のレンズのゆがみの端から光線のように大きく伸び、よく研がれた刃物が切っ先で刺せなかった余剰がそこに突っ立っているのだろうとはじめは思ったがどうやらそうではなかった。みているのはわたしではなく彼女のほうだという直観に貫かれて、はっとしたわたしは頬に手を当てようとしたが、そこにあったのは打ち損じて折れ曲がった錆びた釘だった。せめてと思い打ってみても痛みはなく、痛みがないとすれば液体のように釘が通過してしまうと思っていたのに、実際には釘ではなくわたしが何事もなく通過していった。みえるからといって過去とは限らない。未来だからといってみるべき対象があるとも限らない。痛みがないからといってわたしでないとも限らず、流れてしまったからといって言語でなかったとも限らない。それは言語ではなく肉体でもなかった。実体でも感覚でもなかった。虚構でもなければ現象でもなかった。身体という何も指さない記号を何かで満たす気力もなかったので文字通り亡霊があらわれ、亡霊だけが生き続けている。それをただ目撃するものに主体の座を与える。